東京地方裁判所 昭和50年(ワ)10821号 判決
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【判旨】
2 <証拠>によれば、被告は、昭和五〇年九月一四日組合(編注―新東京個人タクシー共同組合)墨田会総会の席で、原告は、組合に加入する前観光バスの運転手をしていたが、いかさまばくちや、ドライブインの経営者から金を巻き上げたりガドに手を出したり、労働組合を除名になつたりした男だと述べたことが認められ、右認定に反する証拠はない。
3 原告本人尋問の結果(第二回)によれば原告が組合野球部の監督の地位を退くことになつたのは、被告の右各所為に帰因するものであることが認められ、右認定に反する証拠はない。
4 以上認定の被告の各所為は、いずれも原告の名誉、信用を毀損するに足るものというべきである。
三よつて、被告主張の抗弁について順次判断する。
1 被告は、右各事実はいずれも真実であつて、これを組合理事会等で指摘したことは、組合専務理事である被告が専ら公益を図る目的に出たものであり、違法ではないと主張する。しかしながら、
(一)(1) <証拠>によれば、
(イ) 原告は昭和五〇年三月下旬、組合専務理事である被告に対し、組合が同年五月に予定している一泊旅行の下見をしてきたいと申入れたので、被告は、組合の会計から原告に対し、交通費として、金五〇〇〇円支出したこと
(ロ) 原告は、同月二八日家族三名を連れて、組合旅行の宿泊予定宿であるホテルニユー塩原に宿泊し、同ホテルは、下見であるということで、原告に対し、宿泊料金を一切請求せず、原告らは、これを支払わないまま帰つたこと、
が認められ、右認定に反する証拠はない。
(2) 被告は、下見旅行は、理事会の申合せで禁止されていたと主張し、証人林甫宗の証言及び被告本人尋問の結果中にはこれに沿う部分も見られるが、仮に右申し合せがあつたとしても、右下見は、組合専務理事である被告の了解の下に、組合から交通費の支給をうけて行つたものであるから、それ自体を非難することはできないものといわなければならない。しかしながら、下見旅行に家族を同伴し、それに対する宿泊料金まで免除をうけることは、公私を混同したものという外なく、原告の右所為は、その点において非難されるべきものを含んでいるといわなければならないけれども、被告がこれを基に、「原告は、組合旅行の下見を口実に、しばしば家族五人を連れ、一泊無銭旅行をする。」と述べたことは、事実をはるかに誇張しているという外なく、違法たるを免れないものといわなければならない。
<中略>(なお、(二)は「原告が組合費で新年会の二次会をやることを強要した」、(三)は「原告が組合の取引先に対し、金品を強要した」、(四)は「原告が組合旅行の際、いかさまばくちを行い、金一〇〇万円をもうけた」、(五)は「原告が事故見舞と称して、理由なく組合に休業補償を請求した」との被告主張のいずれも認めるに足る証拠がないとして否定したものである。)
(六) <証拠>によれば、原告は昭和四六年ころ、組合に対し、一年間の負傷事故による保険金の給付を請求したが、右事故は保険契約締結前のものであつたため、組合では右事故に対する保険金は支払えない旨説明したのに原告は、これを納得せず、保険会社まで行つて、同様の請求をしたことが認められ、右認定に反する証拠はない。その結果組合が困惑したであろうことは想像に難くないが、それが直ちに組合役員の適格性を云々すべき事由になるとは認められない。
<中略>(なお、(七)は「原告が組合に対し、実際は満額支払済であるにもかかわらず、二年前の組合共済金の支払を請求した」、(八)は「原告が酒癖が悪く、すぐ暴力をふるう」、(九)は「原告が常に黒幕として組合の攪乱を策謀し、何人もの組合員を組合から追い出した」との被告主張の事実についていずれもこれを認めるに足りる証拠がないとして排斥したものである。)
2 被告は、仮に右各事実が真実ではなかつたとしても、被告には、右各事実が真実と信ずるに足る相当の理由があつたと主張するが、これを認めるに足る証拠はない。
3 被告は、昭和五〇年一〇月九日原、被告間に示談が成立し、これに基き、被告は、同月二四日の組合総会において、原告に対し謝罪したと主張するが、右示談成立の点については、これを認めるに足る証拠はなく、かえつて、<証拠>によれば、組合は、昭和五〇年一〇月二四日開かれた第一〇回通常総会において、本件紛争に関し、双方の良識ある判断によつて穏便に解決することを基本方針とし、
(一) 理事解任決議を総会に提案するなど原告を責め立てることは一切しないこと
(二) 本件に関して、会報に不適当な字句があつたのをお詫びすると共に訂正すること
(三) 今後同種の問題が発生した場合は、査問委員会を設置して具体的処置を検討して頂くこと
を確認し、被告は、「私にもミスがありましたので、ここで皆様に謝罪したい。」と述べたことが認められるが、被告の謝罪は、本件紛争を穏便に解決したいというものであつて、前記各所為を原告に対し謝罪したものとはいえず、原告の精神的苦痛がこれにより慰藉されたと認めることはできない。
三(ママ) よつて、前記認定の被告の各所為は、原告に対する不法行為を構成するものであるところ、<証拠>によれば、被告は、組合理事長であつた竹沢常治の死後組合理事長の職についたものであるが、運転者出身でなかつたこともあつて、その行為が専断であると批判する原告との間にかねてから対立があり、これが本件紛争の遠因となつていたが、被告が前記各事実を組合の会合で公言し、またこれを会報に掲載した結果、右各事実は、広く全組合員に知れわたり、大部分の組合員はこれを真実とみるようになつたため、原告は、社会的評価を著しく抵下させられ、回復しがたい損害を蒙つたことが認められ、右認定に反する証拠はない。右精神的損害は、これを金七〇万円と評価するが相当である。<後略>
(野崎幸雄 森脇勝 富田善範)